きみねの備忘録

読書とその他よしなしごと

『鬼滅の刃』が終わってしまった!(読んだことないけど)

 『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載されていた『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)が完結したという*1。世事に疎い私にも『鬼滅の刃』が無類の人気を誇っていることは耳にしていた。

*1:大分合同新聞「『鬼滅の刃』完結、世界トレンド入り 連載終了に驚きと惜しむ声続々「鬼滅ロスだ…」」,2020年5月18日午前1時36分(日本時間),2020年5月24日閲覧(日本時間),https://www.oita-press.co.jp/1009000000/2020/05/18/ORI2162330

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椎名林檎「ドツペルゲンガー」における仮名遣いの誤りについて

 「須らく」の歌詞における用法を調べているとき*1,椎名林檎の「ドツペルゲンガー」*2が検索結果に出てきた。その歌詞は旧仮名遣いによってつづられており,その仮名遣いに誤りを発見したので指摘しておく。なお以下の誤りは「うたまっぷ*3,「j-lyric.net」*4,「JOYSOUND.com」*5でも同様だったので歌詞サイト側の誤植ではないと思われる。またふりがなについてはサイト側が補足したと考えられるので指摘しない。

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歌詞における「須らく」の用法〜誤用が圧勝〜

 須(すべか)らくという語は本来「須らく〜すべきだ」などの形で「ぜひとも〜すべきである」という意味で使われる。しかし音が似ているため,そして置き換えても文章として意味が通じてしまうことが多いため「すべて」という意味で誤用されることが多い*1。そこで歌詞検索サイトの「UtaTen」*2を使用して,この「須らく」という語がどのように楽曲の歌詞で使われているかを調査してみた。

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『わたし今、トルコです。』(市川ラク,KADOKAWA,2017年)

 日本人で30歳くらいの作者が語学留学のためトルコに長期滞在した経験をえがいた随筆漫画。トルコでは若いトルコ人の女性と共同生活をしつつ,現地の外国人向けトルコ語学校で出会ったさまざまな国(ロシア,中国,韓国,シリア,イラク,ボスニアなど)出身の人びととふれあうさまを描写する。そして体験したトルコの習慣や人びとの気質を肩をはらず,可笑しみを交えながら伝えている。絵柄は比較的省略化されていてほのぼのとした雰囲気を醸し出している。ただし,強調のためか現地の人びとを描写するときなどたまに細密になることがある。

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『史記―中国古代の人びと』(貝塚茂樹,中公新書,1963年)

 本書は中国史学者の著者が初学者向けに司馬遷の『史記』を解説した新書である。『史記』は王朝ごとの歴史や個人の伝記などがまとめられたものであるが,すべてではなく著者が重要と考える箇所を取り上げている。記述は物語風で,しばしば著者の想像を交えつつ,『史記』の面白さを平易に噛み砕いて解説している。『史記』の訳文もわかりやすさを重視しており,外来語を使用したりさえしている。そのため読みやすく,初学者が『史記』の概略を知るのに便利である。『史記』を読んでみたいがいきなり手を出すのは敷居が高いと感じる人に本書をおすすめできる。読了後『史記』がだいぶ読みやすくなるだろう。

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彼はいかにしてツイッター上でトイレットペーパー品薄の元凶とされたか

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に多くの人びとが戦戦恐恐とするなか,2020年2月27日熊本でトイレットペーパーの買い占め騒動が起こった*1。トイレットペーパーが中国で製造されており,新型コロナウイルス流行の影響でその製造ができなくなるため品薄になる,という噂が原因だった。

*1:<“マスク材料”の噂で…トイレットペーパー品切れ相次ぐ 「全くのデマ」>,西日本新聞ニュース,2020年2月27日午後7時13分,28日午後1時5分更新,https://www.nishinippon.co.jp/item/n/587598

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フクロウの証明(月にはほとんど確実に生命が存在する)

 スズメがいった。「月にはウサギがいるんだよ。」
 ハトがこたえた。「月にウサギはいやしないよ。」
 スズメとハトはウサギが月にいるかいないかで口論になった。そのさわぎを聞いたカラスがいうには
「月にウサギがいるかいないかなんぞわかりゃしないよ。いるかもしれないし,いないかもしれない。」
 スズメとハトはなるほどと思い知恵あるカラスにかしこまった。

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『周 理想化された古代王朝』(佐藤信弥,中公新書,2016年)

 本書は中国の古代王朝周の実態を,近年発掘が続く金文や甲骨文,竹簡といった出土史料や『書経』,『春秋左氏伝』,『史記』などの伝世文献を基に概説した歴史解説書である。著者は関西大学歴史学の博士号を取得しており専攻は殷周史である。周に着目した本はなかなかないので,古代中国史好きにはまたとない好著である。『史記』や『竹書紀年』などの後世に筆録された文献のみに頼るのではなく,同時代史料である出土史料,特に金文を中心に駆使して周の歴史や統治構造を解明していく。伝世文献に描かれた「周」像とは異なるより正確な周の実像を知ることができる本だ。『史記』などの伝世文献にある周の歴史を踏まえた上で,それを出土文献から修正することが本書の肝であるので周史の概略を知っている人が読むとより楽しめる。伝説と実像の一致や相違に知的興奮を得られるだろう。

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『史記』不倫列伝

 男女の道ならぬ関係というのは有史以来くりかえされてきた。古代中国の歴史書史記』にもその例は多く記載されているのでその中から五つ紹介しよう。なお本記事における「不倫」とは広く不道徳な男女関係をさす。配偶者や恋人がいるにも関わらず別の異性と関係を持つ,という意味に限らないということを留意してほしい。

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愚書愚論の社会的意義

 『史記』商君列伝には秦の孝公に商鞅が謁見したときの逸話がある。商鞅はまず帝道について話したが,途中孝公は居眠りをした。日をあらためて王道について語ったがやはり孝公の気に入るところではなかった。そこでまた謁見したとき商鞅は覇道をもって政治をとり行うことを論じたところ,孝公は興味を示し初めて商鞅を評価した。ここで孝公が求めている政治術を理解した商鞅は強国の術を説いて公に彼は登用された。

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「ガリヴァ旅行記」(ジョナサン・スウィフト,中野好夫訳)のあらすじと感想

 イギリスの作家ジョナサン・スウィフトの風刺小説,「ガリヴァ旅行記」を読んだのであらすじと感想を書いていきます。参照した翻訳は「筑摩世界文学大系」第20巻『デフォー スウィフト』に所収の中野好夫訳です。

 

 本作は船医で記憶力のいいガリヴァが主人公で,序文と4つの本篇,最後に付された「ガリヴァ書簡」から成り立っています。第一篇はリリパット(小人国)を,第二篇はブロブディンナグ(大人国)を,第三篇は科学者の国で空中に浮遊する島ラピュタを,第四篇はフウイヌムという一見馬のような生物ですが大変賢明な種族が統治する国を舞台としています。各篇の基本的な筋はガリヴァが船旅に出て遭難して奇妙な国に漂着,しばらくそこで過ごしてさまざまな体験をし,すったもんだあって祖国に帰るというものです。要するに「ガリヴァ旅行記」は独立性の高い四つの小説をまとめたものと言えます。本記事では各篇ごとのあらすじと感想を記述します。

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『砂の女』(安部公房,新潮文庫,1981年)の感想

 砂丘にある部落に昆虫採集のため訪れた教師の男が大きな穴の底にある女の家に陥れられそこで生活を強いられる,という筋の小説である。教師の男の視点から物語は語られる。男ははじめ脱出しようと試みるが,徐徐に穴の中で女と共同生活することに適応していく。適応しつつも脱出の希望を捨てない男は小説の終盤で遂にそれに成功しかける。しかし結局村人にとらえられ,穴に連れ戻される。この脱出失敗のあと,男は穴底生活への適応がさらに進み(あきらめたわけではないが)以前のような外の世界への渇望は失われている。

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『現代日本文学大系95 現代句集』の感想4,最終回(日野草城,野見山朱鳥,橋本多佳子,西東三鬼,細見綾子,篠原梵,金子兜太,沢木欣一,飯田竜太,石原八束,角川源義,秋元不死男,加倉井秋を,石川桂郎,森澄雄,野沢節子,荻原井泉水)

 今回一人当たりの紹介句数が少なくなっているのは私の批評のための体力・気力が低下してしまったためであり,決して優れた句が少なくなったわけではない。俳句作者たちの名誉のために付言しておく。


「旦暮」(日野草城)
 即物的で社会性を持った句が多い。肉感的で女性の艶が出ているものもある。

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R Sound Design「神曲」の解釈 ~ ダンテ『神曲』に基づいて

 本記事は「R Sound Design氏の「神曲」について」*1の増補改訂版です。

  • 第1章,はじめに
  •  第2章,独白部分における「キミ」,「ボク」とは誰か
  • 第3章,対話部分のダンテ(R)とベアトリーチェ(R)
  • 第4章,ダンテ(R)とベアトリーチェ(R)の罪と罰
  • 第5章,すべてを凌駕する愛について
  • 第6章,「神曲」歌詞通釈
    • 第1節
    • 第2節
    • 第3節
    • 第4節
    • 第5節
    • 第6節
    • 第7節
    • 第8節
    • 第9節
    • 第10節

 

第1章,はじめに

 「神曲」はR Sound Design氏が作詞作曲した楽曲で,ボーカロイド初音ミクに歌わせたもの*2がある。動画説明欄に『ウィキペディア日本語版神曲」』(2019年)*3のリンクが貼られていることや題名のDante,歌詞の内容から分かるように,イタリアの詩人ダンテの『神曲』(特に地獄篇)を題材とした楽曲である。

*1:https://kiminemai.hatenablog.com/entry/2019/01/26/050000

*2:「神曲/R Sound Design feat. 初音ミク-Dante」https://www.youtube.com/watch?v=_n-IayJaLt8(最終閲覧:2019年10月17日)

*3:https://ja.wikipedia.org/wiki/神曲(最終閲覧:2019年10月17日)

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『現代日本文学大系95 現代句集』の感想3(種田山頭火,三橋鷹女,富沢赤黄男,山口青邨,高野素十,臼田亜浪)

 生前のいくつかの句集をまとめたものらしい。自由律俳句の句集であり,やはりさらさら読めて楽しい。作者の不安や焦燥が伝わる句が多い。また戦時下の世相を表現した句も多くその不安な世情を韻律の破れた自由律は見事に表している。

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