きみねの備忘録

読書とその他よしなしごと

椎名林檎「ドツペルゲンガー」における仮名遣いの誤りについて

 「須らく」の歌詞における用法を調べているとき*1,椎名林檎の「ドツペルゲンガー」*2が検索結果に出てきた。その歌詞は旧仮名遣いによってつづられており,その仮名遣いに誤りを発見したので指摘しておく。なお以下の誤りは「うたまっぷ*3,「j-lyric.net」*4,「JOYSOUND.com」*5でも同様だったので歌詞サイト側の誤植ではないと思われる。またふりがなについてはサイト側が補足したと考えられるので指摘しない。


 いきなり指摘は終わってしまうが次の引用にすべての誤りが含まれている。

見えてしまつたよ 美意識を孕むだ愛憎
まう辭めたよ ほら須く示して
其処は天國


 まず「孕むだ」だが「孕んだ」が正しい。この「だ」は過去を表す助動詞「た」の音が濁ったものであり,動詞の連用形がつく。つまり「孕みだ」となるわけであるが,この場合は「み」が撥音便となって「ん」にかわるのである。おそらく旧仮名遣いの「む」のうちで「ん」と発音するもの(たとえば推量の助動詞「む」)があることから誤解したのであろう。


 そして次は「まう」である。これは「すでに」と同義であるが,新仮名遣いでも旧仮名遣いでも「もう」と書く。この間違いは他に2箇所ある。


 ちなみに仮名遣いではないが「須く」の使い方は誤用*6である。「すべて」の意味で使うのは本来の用法ではない。正しい意味は「ぜひとも〜すべきである」だ。


 以上の間違いは歌詞に威厳をもたせようとしてそれに失敗した結果であるかもしれないが,一方で何か別の意図がある可能性も捨てきれない。だからただ標準文法との相違点を指摘するにとどめ,これ以上何かを論ずることは“まう”やめよう。そんなことをしたらかえって赤っ恥をかく可能性を“孕むで”いるからだ。


 なお参照したサイトは日本時間2020年5月17日閲覧である。


参考文献
明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店,2010年)

 

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  • アーティスト:椎名林檎
  • 発売日: 2008/07/02
  • メディア: CD